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たとえば、口うるさい、がみがみと人の粗ばかり探す女性スタッフがいたとして、その人の背景情報を知った上で、その立場に自分の身をおいてみる。 夫がぜんぜん家に帰らない人で、息子や娘も年頃になってその人を煙たがっている。 会社ではうるさいおばさん扱いされていて、男性が話しかけてくることはなくなってきたし、女性社員からもあんなふうにはなりたくないとばかにされている。 そのような背景情報をつかんだ上で、部下のちよつとしたミスをみつけたときの彼女の立場に身をおいて、彼女の心の世界を想像してみる。 いつもばかにされているので多少なりとも自分が偉そうにできる場をみつけたと嬉しく感じるかもしれないし、ふだん鬱屈している怒りの感情がわき出すかもしれない、あるいはやっと若い人と話すきっかけができたが、他に話しかける方法がないのでがみがみいうのかもしれない。122第2章頭をよくするトレーニングこういう想像は、相手が同じ人間である以上、多少なりとあたっているはずだというのがコフートの基本理念である。 治療の場面であれば、その想像を伝えることであたっているかどうかの確認ができる。 そしてあたっていた場合に、患者はわかってもらえたと感じて少しずつ精神の安定や成長を勝ち得ていくのだ。 オフィスでこのような想像をすると、それによって、その女性が口うるさいのにも腹が立たなくなってくるだろうし、もう少しこちら側が自然に接してあげることを通じて、相手の態度やぎすぎすした感情も和らいでくるかもしれない。 はっきりと「お寂しいんでしようね」と口に出すことは難しいだろうが、社員食堂で一人で食事をしているところに、隣に座ってあげるだけで、やたらに人懐っこくなったり、社内の情報をぺらぺらと教えてくれるかもしれないのだ。 いずれにせよ、共感も日頃のトレーニング次第で身につけやすい能力である。 そのためには日頃から、特に対人関係がからむシチュエーションで、自分の立場や主観でものを感じたり、考えたりするのでなく、相手の立場に身をおいてみて、考えたり、感情を想像したりする。そういう体験を積み重ねていくだけで、人の気持ちがわかる人に徐々になっていくものだ。 ついでに、自分の思考パターンのバリエーションも増えていくので一挙両得のトレ−ニングなのである。 日常の対人関係がうまくいくようになるだけでなく、商談の際などに相手の立場でもの12うを考えることによって、相手の弱点や落しどころがみえてくることもあるだろう。 それによって、交渉能力や説得能力もハイレベルなものになってくるのだ。 人が他者に求める三つの二?ズコフートは、患者が、治療者が自らの自己愛を満たしてくれる対象(これをコフートは自己対象と呼んだ)であると感じている時に、精神的に徐々に健康になっていくし、治療者をより大切なものと感じるようになるとしている。 コフートは治療者や親にはこの自己愛を満たしてやる三つの自己対象機能があると考えた。 一つ目の自己対象機能は、鏡自己対象機能である。 これは、患者や子どもが何かをやってきた時に、治療者や親がほめてあげる、注目してあげることで自己愛が満たされるという治療者や母親の機能である。 部下や同僚などの成功を素直にほめたり、あるいはいっしょになって喜んであげれば、相手の自己愛は満たされ、その人のことを好きになる。 当然すぎることかもしれないが、これは対人関係の重要なテクニックだ。 あるいは、恋人が髪型や化粧を変えてきた時に、それをほめたり、気づいてあげたりすることで、相手を満足させるというのも、この鏡機能が働くからである。 最近の研究では、叱るしつけよりほめるしつけのほうが、子どもの知的機能の発達を促進さ12'i第2章頭をよくするトレーニングせることもわかっている。 |
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