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タイトル
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シャアリのファンタジア
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目的地 |
アフリカ・中東 > モロッコ > マラケシュ
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場所 |
マラケシュ |
時期 |
1992 年 7 月 |
種類 |
景色 |
コメント |
ここ、野外レストラン「シェ・アリ」はマラケシュ郊外にあるファンタジアを観せるショーレストランだ。 ファンタジアとは、その昔、敵と戦闘をはじめる前に自軍を鼓舞するために始めら れたとされる、馬に乗った数人の騎兵たちが銃を掲げてアクロバットを演じる、モロッコの伝統芸能と呼べるべきものだ。 ここでは、運動場規模のグランドがありその周りをベルベル風の大テントが設営されており、そのショーを観るようになっている。ファンタジアが始まるまでは、先刻のようにベルベル人の結婚式風や地方祭り風の歌劇やら演奏やらが入れ替わりテントへ訪れる段取りになっているようだ。 チップはこのショーと食事がセットになった料金に含まれているとかで、私たち観光客にはありがたいシステムになっている。 50ドルは少し現地価格からはずば抜けて高い気がするが、ホテルで手配してもらったオプショナルツアーに参加した。 数軒のホテルを経由してきた送迎バスに乗り込み、夜の帳が降りかかったマラケシュ郊外のおよそ明かりという明かりがみえない真っ暗闇の道を行くこと約1時間。 砂漠のど真ん中へ放り投げられたようなうら寂しい所でバスは止まった。 横のドイツ人の老夫婦たちの、舌打ちをするような仕種に少し不快にさせられた。 が、少なからず私も同感だった。 いよいよ明日からアトラスを越え砂漠へ行くのだった。 濃縮したこの町の最後の夜はガイドブックに唯一案内されているイタリアンレストランででも、しみじみと送ろうかとも思案していたが、結局、「話の種」が勝っ た。 バスを降り、仰天した。虹色にライトアップされたカスバが忽然とそびえ立っていたのだ。 バスの送迎にまでガイドが付き添ってきた。名をイドリースという。 「シェ・アリはここだ」と、判りやすい英語で横にいた私に説明した。 場内へ向かうエントランスには、ファンタジアの騎士たちが馬上で一列に勢ぞろいして出迎えてくれた。 ドイツの老夫婦の顔を見てみたかったが姿はすでになかった。 そして馬のトンネルを進み、大きな門構えを過ぎ、いよいよ野外テントやそのまた背後にそびえ立つカスバ風の城が見えてきた。アンダルシアの大音響とともに。 広くゆるやかな階段にはベルベルの衣裳の女の子が籠を抱えて立っていた。 まだ、年端もいかない幼女だ。 この地では、まだあどけない顔の少女や少年たちがいたるところで、労働力を提供していることに心が痛むが、それより彼女のふくよかな笑顔の方へ思いは傾くのだった。 そして、こう言うのだ。 「いっしょに写真を撮ってもらえませんか?」 バラの花びらを頭にたっぷり被り、野外テントへ向かった。イドリースはいつのまにかいなくなっていたが、給士人たちは団体でやってきた客の時間帯などを承知してのことか、手慣れたもので次々と席へ案内していた。 私は席の確保よりもテント周辺あちこちで演奏している楽団に見入ったり、アンダルシアにノリノリで、慌ててテントを見渡したが、どこへ座ったらよいのか判らな くなっていた。 オスマントルコ時代のトルコ帽を被った給士さんにキョロキョロしながら私は、 「私の席は?」と、尋ねるが、もうすでに他のオプショナルや個人的その他の客がやってきており、それでもトルコ帽の男は心得た風で、 「お好きな所へどうぞ」と、バスの中では見覚えのない客たちの席へ案内してくれた。 ショーは8時から一回のみ行われるらしい。 それまでは、冒頭の飲めや歌えや(歌いはせぬが)の世界がくり広げられるのだ。 出された料理の羊のタジンやクスクスにはほとんど手もださず、(全ての料理は人数分の大鍋で供されるので、見知らぬ人々に気後れしたこともあるが。)ひたすら酒を飲んだ。 モロッコではこのようなレストランでは飲酒ライセンスを取得しており、辛党は安堵の胸を降ろことができる。それでも、現地人が飲酒している姿はついぞ見かけな かった。 それはともかく、ここでは観光国ながらもアクティビティーの少ないモロッコにしては、めずらしくエンターテイメントを演出してくれている。 ついに3本目(そう・・・・ご丁寧に白、赤、ロゼと一本ずつ)のワインを開けた私は勢いに乗ってベリーダンスまでやらかしていたのだ。 旧宗主国であるフランス人たちの労いの言葉と嘲笑を避けるように、夜風にあたって一息つこうとテントの外にでた。グランドをぐるり取り囲むテントのあちこちで楽奏と客たちのけたたましい歓声が届いてきた。少し肌寒くなってきた。 その時、フクロウのような視線を感じた。 振り替えると、白のジュラバを着て大きなメダルを下げたイドリースが大きな目をしてこちらを見つめていたのだ。 イドリースはテントの外のテラスで一人静かに茶を啜っていた。 彼は私を手招きした。 何やら日頃見かけぬ東洋人が珍しいのかバスの中でも、やたらと私にお世辞でもまいとはいえない英語で話しかけてきていたのだ。 もちろん、人のことはもっといえない立場だけど。 イドリースは私に椅子を差し出し、一息ついていきなりこう切りだしてきた。 「私が好きか?」 「ん???」 「モロッコは好きか?」 私は酔った勢いもあって 「いやいや好きではない、愛しているんだ」とゆっくり告げた。 一瞬寂しそうな顔をしたイドリースは顔を崩して、 「そうか、そうか」と大きくうなずいた。そして、 「フェズに住んでいる。4・5日仕事を国内でしては故郷の町へ帰る。二人の男の子がいるが、この前、女の子の赤ちゃんができた。双子なんだ。」と身のうち話を 始めた。 4日後には本当にフェズの彼の家へお邪魔し、お茶を飲むこととは露知らず。 眠りついていた双子の赤ちゃんはまだ生後4ケ月ほどで触れば壊れそうな感じがした。 イドリースと話し込み、すっかり酔いが醒めていた。 さあ、飲み直しだ。祭は始まったばかりだ。 結局、ファンタジアは観ずじまいだった。
こんな夜もあるのだ。 すっかり、酔っ払っていた。ゲロゲロ吐いた。 吐いたら醒めた。ホテルで飲み直そう。 明日のアトラス越えのカーブの多さと勾配の壮絶さも知らずに・・・。
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