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タイトル
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バザールにて
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目的地 |
アフリカ・中東 > トルコ > イスタンブール
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場所 |
イスタンブールバザール |
時期 |
1991 年 8 月 |
種類 |
景色 |
コメント |
ゆっくり足を繰り出しバザール内へと踏み込む。 光がしだいに閉ざされていった。 ヌルオスマニゲート近くには宝飾品や高級絨毯店が所狭しとひしめきあっていた。 グランドバザールは旧市街にある城壁と屋根に覆われた巨大な市場だ。 1453年、メフメット2世の治世下、現バザールの原型であるオールドバザールがつくられた。 何度かの火事に遭いながらも拡張をしていき、現在に至っている。 迷路のような通りが縦横無尽にあり、商品ごとにある程度のエリアが固まっている。 しかし、絨毯を買うにしても、初めての観光客は一体全体どこが安くて良心的な店なのかは皆目検討がつかず、バザール内で約6,000軒ともいわれる驚くべき数の店舗からお気に入りの物を見つけることはかなり骨が折れる作業でといえる。 グランドバザールへ入る洗礼はなんとか受け止められたものの、元来の土地勘のなさに加え、言葉が全く通じない世界でどうしたものか。 平静を装いながらショーウィンドーを眺めたりしつつ、雑踏と埃にもまれながら歩を進めたが、その速度は自分でもはっきりわかるくらいいつもより速かった。 それより、ナザールボンジューらしきものが全く見当たらないのだ。 ナザールボンジューを求める旅はさらに市場の奥へと続いた。
――――すでに迷っていた。 それはいとも簡単だった。比較的大通りをまっすぐ進むだけだったが、三叉路にぶつかり何気なく進んだ道は、やがて袋小路になっていた。 後戻りもできず、私はナザールボンジューを捜し求める使命感のようなものだけで額の汗を冷たくしながらつき進んだ。 それらしき店をくぐりつつ、また進むのだが、店頭に目玉のついたガラス玉が飾られているのみで、どこにもナザールボンジューらしきものはなかった。 どうやら、コピーらしきものばかりが出回っているらしい。 闇雲にあたるのも得策ではないと判断する。 「ソニーさん。まいどーー」 「ちょっとちょっとホンダさん。ここ、オカチマチプライスね」 「セイコーさん、ミルダケ、タダネ」 という日本語があちこちから飛び交う。勧誘員のいない店を選ぶことにした。 本物がきっとそこにはある。 そして、嗅覚に頼り、ある一軒に飛び込んでみた。 「メルハバ(こんにちわ)」 薄暗いその店にはまわりの活気とは裏腹に客一人いなかった。 しかも、店主の姿もない。 やっと店の奥のカーテン越しからやせ細った髭男が姿を現した。 男は静かにこちらを凝視した。口やかましい男たちのトルコにあってはじめての体験だったので、少しびくついたが、どうやら話ができる男のようだ。 私を懐暖かい日本人としてではなく、人間として対等に正対してくれているように感じた。 「えーと、ほら、トルコの有名なこーんな形した、ほら青の・・・・ない?」 ここにもその「らしきガラス玉」はあったが、本物はもう稀少価値で店頭には並べられてないのだと、確信していた。 男は「青の・・・・・・」という私のカタコトの英語に反応した。 そして、今までみたことのないような眼光が鋭くなり、私をここで待て、と伝え店の奥へ再び消えた。 再び、カーテンから出てきた男はトルコ絨毯のような布に包まれた物を手にしていた。 それをレジ台に置き、私を手招きした。 私の期待感は絶頂にあった。 |
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