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ムーアノカフェ
ムーアノカフェ

タイトル  ムーアノカフェ
目的地 アフリカ・中東 > モロッコ > その他の都市
場所 ラバト
時期 1992 年 7 月
種類 景色
コメント ムーア風のカフェにいる。仮に、カフェ・ムーアとしておこうか。       
ここは、カスバの中にあり、大西洋に注ぐブー・レグレグ川の入江を望む高台にあ
る。 
カスバのなかの家々や壁は白い漆喰で塗られて統一されている。        
家の窓辺には色鮮やかな花々が飾られている。家の扉はお守りとされているファテ
イマの手をかたどったノブが付いている。                  
イスタンブールでみかけたファテイマの眼と根を同じにする風習であろう。   
アッツイーを注文する。
この国で、何杯目のミントティーになるだろう。      
旅に疲れがでると、無性に甘い物を体が欲する。               
モロッコのお菓子も砂糖の分量を間違っているかのように甘い。そして美味い。 
水滴が滴るグラスの向こうに見透かしているのは、海水浴を楽しむ人達である。 
今日の大西洋の波は荒いようだったが、入江には老若男女を問わず、海水浴という
よりは、無理やりバカンスを楽しんでいるといった風情だった。        
ブー・レグレグ川の北岸はこちら側と同じように城壁に囲まれたサレの町がある。
ブルーヌースのマントに身を纏い儀仗銃を手にした衛兵の交代式を現王宮前のハッ
サン2世広場で見物したあと、校外研修か何かで見学に来ていた地元の小学生たち
とトイレ前で仲良くなり、そのままバスに乗り込み、一緒にはしゃいでいた。  
引率らしい、女の若くこちらではめずらしい洋装の先生は、あきれ返りながらも、
何度か子供たちと一緒の私に向けシャッターを押してくれた。         
ムハンマド5世廟と未完成のミナレットと2百本の円柱のみが残るモスクのある広
場から、川沿いをバスで走ってカスバへ来た途中、渡し船が何溲も渡って行くのを
みた。  

三途の川を思わせた。あちら側とこちら側−−−。              
いつの間にか重い雲がたちこめ、空がどんよりとしてきた。          
カフェ・ムーアは鈍く白い光に包まれた。                  
そして、潮風に頬をうたれながら、うつらうつらしてきた。                                               

−−−−−−−−−−それは、終わりのない、始まりだった。                                              
寝ても覚めても夢を見ているようだった。                  
もう、体はここにあるのに、ちぎれていく雲を眺めては、窓からこぼれる秋の月光
をに包まれては、あそこにいる気がしてならず、じっとしていられなかった。  
気だけ、そわそわした。                          
私にとっては、「今」こそが非現実の世界にいるのだろうか。         
天使はいつも扉の向こうでノックするタイミングを諮っている。        
精鋭なアッザーンの調べが、かすかながらも耳鳴りがするように鳴り響いていた。                                     

私はいつでも、あてどもなく彷徨っていた。                 
そして、此処彼処にかかわらず、羊水の中をたゆたうようにしながら、光を眺めて
いた。 
それは時には、暗い闇に閉ざされた天空でもあり、密封された灰色のセルロイド状
でもあり、吸いこまれるような紺碧の青であったりした。           
私はもう何処にもいけないこと「知った」その「時」でさえ、その「時」からも、
あの遙なるアイネスグレイタ(どこでもない)へ行こうと渇望していた。                                         

アイネスグレイタ−−−−−−−−−−−−−−−−−−。                                               
いつの日か、「知った」ときから、ここにいる。ここにはいられない。     
表層のなかの大命題と真っ向から真実の剣を歯向かうことはぜずに、いつもと変わ
らぬスタンスで、いつもの朝を迎える。                   
真実は瞼の裏にある。                           
それでも、今日も朝日を真摯に迎えている。                 
瞼を閉じても、開いても、ある風景が蘇ってくる。              
丘の稜線を見つめて、その向こう側に何かすばらしい世界が開けているよう
な・・・・・。  
あの丘を越えてみようと想いは飛翔し、きらびやかな移動祝祭のなかと希求する。                                     

望み、かなえよう。                            
開け、ばんたいしょう。                                                               

記憶の古層はどこにもたどりつけないが、せめて知りうるかぎりのジェンナへ−
−。  
また旅に、身も心も躍動と安らぎのジェンナへ。                                                    
始まりもなく、終わりもなく−−−−−−−−−。                                                   

少し、眠ったようだった。                         
−−−−目が覚めたら、もっと長い旅がまた、はじまる。           
さあ、目を開けよう。                           
私はまだ何もみてきていない。                       
カフェ・ムーアにいる。                          
他の客は田舎ではとんとみかけなかった若いカップルで愛の巣状態だった。   
簾のかかった眼が醒めるような青いテーブルと椅子。             
どこからか、幼子たちの歓声が風にのってきた。               
声につられ、半分ほど残ったグラスを置いたまま出入り自由なカフェの外に出る。
ゆったりとした白壁づたいにしばらく歩くと、緑がまぶしいカスバのなかの公園に
突きあたった。
泉からは溢れんばかりの水が湧きでており、涼風を装っている。      
そのまわりを取り囲むようにして、子供たちがはしゃぎまわっていた。     
「サラーム」と軽く挨拶を交わす。                     
バナナやオレンジ、ブーゲンビリヤなどの南国の花々が咲きほころんでいる。  
ここはジェンナか?いや、そうではない。                  
砂漠から、アンダルス地方のような町のなかにいる幻想がそうさせたのだ。   

ポール・ボウルズ著の「彼らの手は青い」を引用しよう。           

−サハラ砂漠に一時でも身を置いた者は、もはや決して同じ人間ではいられないの
です。 
これまで知らなかった自我の再統合−快いことは何もありませんが。−普段のまま
の自分と、向いあうか、また保っていくか、それとも流れの勢いにまかせるか、選
択を迫られるのです。−                                  

ここはジェンナであるが、そうではない。                                                       


さて、カフェ・ムーアである―――。                    
ルート14号からブー・レグレグ川に沿って太平洋をめざす。
やがて、アンダルシア人が築いた城壁が左手に見えだすだろう。そこが、ウダイ
ヤ・カスバだ。         
12世紀、ムワヒド朝のフーファ文字と珍しい動物文字のファサードで飾られてい
るウダイヤ門の手前からカスバに入り、白い壁づたいを行き、少しすると階段があ
る。  
階段からサレの町と城壁が見え隠れする。                  
階段を降りきって、すぐにそのカフェがある。                
きっと、あなたもたどり着ける。   

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