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マサイマラのチーター
マサイマラのチーター

タイトル  マサイマラのチーター
目的地 アフリカ・中東 > ケニア > マサイマラ
場所 マサイマラ
時期 1998 年 9 月
種類 景色
コメント 「おーい、やっほー、お帰りー」プールサイドで白い肌を余すところなく露出したサングラスをかけた女二人に声をかけられた。
一瞬怯んだが、サングラスをはずして微笑む声の主たちはOと友だちのYだった。
「なんだ、外国人かと思ったよ(笑)」彼女たちの横のデッキチェアーに腰掛ける。
「お久しぶりね。アバーディアはどうでした?」チェアーの白さとほんとうに遜色のない白く締まった肢体のYは、横たわっていた体をねじり私のほうに向き、切れ長の大きな目で語る。
私は目のやり場に困っていたが、そ知らぬ風を決め込む。目線はOにばかり向ける(笑)。
「いや、よかったよー。鍵のかからない部屋での英語劇がムチャ楽しかった」
「英語劇?なにそれ?」
「いやいや(笑)。サイ見れたよ。帰る直前、ヒョウのブザーも鳴ったけど、よくわかんなかった」
「オッ、ヒョウはみられなかったのね?」
「それよかさ、そっちはどうだったの?」
私はMといるときは自然とヘンテコな関西弁で、OやYと過ごすときは、これまた自然にでてくるヘンテコな東京弁だ(笑)。
グレースと話すときは、ぜんぜん自然じゃない(笑)ヘンテコな「英語」だし。
アイデンティティはとっくに崩壊している(笑)。
「まあまぁ、ってとこ。ここのナイトサファリでね、昨晩ヒョウが間近に見れたのよ」
「あっ、すごいじゃないですか(笑)」
「ねぇ、Sくん。なんでYには敬語で、私にはタメ口なのよ。私たち同じ歳だよっ」
「そういうけど、そもそも、僕のほうが年上じゃん(笑)」
「それもそうだけど(笑)」
太陽はほぼ頂点にあり、サバンナが最も焦げ付く時間帯だ。
「たった1週間みないうちに、ずいぶん日焼けしたのね」Yもサングラスをとりびっくりする。
「これでも2回、皮むけたんだよ。ちょっと大人になった(笑)」
「あれからドジ踏んで迷惑かけてない?」
あれから―――――というのは、まだ「カーニヴァル」の遅刻事件や、その原因となった「宝塚追っかけ」のことを根にもっているのだろうか。しつこい、O。
「いや、そんなには、・・・・・あるかな、迷惑(笑)」
実は、最後の最後に大迷惑が待っているのを、もちろん私たち3人は知る由もない―――。
お昼時だからなのか、プールサイドには私たちだけだ。
時折、小鳥たちのさえずりが聞こえてくるぐらいで、小さなプールを囲むホテルのうっそうとした熱帯林により、さえずりがよく木霊する。
木々に遮られ窓のようにわずかにのぞく空にはモクモクと入道雲が立ち上っていた。
 アンボセリで私たちは、マサイ・マラでの再会を約束して別れた。
Yはアンボセリではずっと体調不良に悩まされ元気がなかったが、このぶんだと蒸し返す必要もなく大丈夫そうだった。
すこぶる低血圧らしいYは、なにせアンボセリでは一回もサファリをしていないはずだった。
今回の旅発つ直前まで彼女は3日連続の徹夜で仕事をこなしてきたという。
彼女は、アフリカはケニアはもう3回目だと「カーニヴァル」で話していたっけ。
彼女のようリピーターが多いケニアは、人を虜にしてしまう魅力や摩訶不思議な引力があるらしい。
その理由を今回聞いてみた。
「よく諺でいわれてるでしょ(笑)。―一度、アフリカの水を飲んだ者は―」
「赤痢になるっ」
「コレラになるっ」
Yが続けて言おうとしていたところを、私とOは同時に遮って叫んだ。
「違うでしょ、もう(笑)。『アフリカの水を飲んだ者はアフリカに帰る』よ。ローマのトレビの泉にコイン投げるようなものね(笑)」
それなら私も後に―アフリカに帰った―。
しかし、私が「帰ったアフリカ」は、ケニアとは別の国だ―――。
どうして、Yにとって4年の間に3回もケニアだけ、なのだろう。
私は実はYにはもっと核心(コア)になるような部分での説明が欠如しているように思えてならなかったのだが、Yは私たちに構うことなく、読みかけの文庫本に目を落とした。
Yは飄々とした物言いといい、美しい肢体と美貌といい、摩訶不思議な魅力がある。
アフリカのポレポレ精神(ゆっくり)と気質が合うのだろうか。
この旅人には―旅のなかで誰しも抱く、見慣れぬ異国の地での溢れる情熱や感動は、彼女自身がもつ
冷却装置のようなものですべてを異化して、心の奥に仕舞い込んでしまうような技術をもちあわせている―ように思えてならない。
彼女のようなクールな視点を持ち合わせていない、むしろ対極にある私の「意気込む旅」への姿勢は、
すべての「対象」に「感傷的な」旅の「記号」を読み取ってしまうのだ。
きっと、このプールサイドでの光景すら、二人は全く別の世界をつくりあげることだろう。
そう「読み取る」私が、ついつい、「感傷的に」なってしまうのは旅の「終着」が近づいているからにほかならなかった。

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