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マサイマラキリン大群
マサイマラキリン大群

タイトル  マサイマラキリン大群
目的地 アフリカ・中東 > ケニア > マサイマラ
場所 マサイマラ
時期 1998 年 9 月
種類 景色
コメント ―――家族がプールで遊ぶのを眺めながら、暑さとビールでやがてまどろみ、少し眠ったようだった。
「オニイサン、ただいま」眠気マナコで半開きすると、陽だまりに包まれたYとOの姿があった。
「オニイサン、昨日、『ここですぐに溺れるネズミがいるから気をつけて』って言ってたけど、ネズミなんてどこにもいなかったよ」
東京の下町育ちのYと草加育ちのOにしては、随分イントネーションが違うな、と朧ながら思いつつ、目も意識も回復すると、私の側にいた声の主はTとAだった。
マサイ・マラ二日目の、もうすっかり、私が景色の一部になりつつあったプールサイドであった。
TとAは名古屋出身で赤十字病院に勤務する看護士の同僚だ。
ナイロビでのグループ分けの後、たった二人してタンザニアへ向かったのが彼女たちである。
二人はナイロビからナマンガへ南下し、ナマンガの町からタンザニアへと国境を渡り、アルーシャへ。
アルーシャの町は、アンボセリを見下ろすあのキリマンジャロ登山ルートの基点の町として有名だ。
外国人などのキリマンジャロ登山は、ほぼこのタンザニアルートしか許可されていない。
彼女たちの話しに戻そう。
ケニアとタンザニア国境のアルーシャ国立公園からマニヤラ湖国立公園、そしてクレーターのなかの
自然公園として有名なンゴロンゴロ自然保護区、これらを一気に駆け巡り、再びナマンガを越えてケニアに入り、アンボセリ、マサイ・マラと巡ってきたそうだ。
私たちとここで落ち合うのが不思議なくらい、すごい強行軍だ。
現在、ケニアからタンザニアへ向かうには、陸路のみで、ツァボからモシ、ナマンガからアリューシャ、
などのルートのみで、残念ながら両国を跨ぎ、サファリの心臓部ともいえるセレンゲッティ国立公園とマサイ・マラ保護区のルートは今もって封鎖されたままだ。
しかし、そんなことはお構いなしに、セレンゲッティとマサイ・マラ国境を定期的に往復移動を繰り返す一団がいる。
ヌーである。
4月から7月にかけて、約300万頭いるといわれるヌーの大集団が危険を顧みずマラ川を渡り、大移動する様は、動物紀行などのテレビ番組などですっかり有名だ。
彼ら動物に「国境」がないのに比べ、あらためて人間の浅はかな行為などがむなしく思えてしょうがない。
私たちは、ヌーほどすらも「自由」足りえていないのだ。
そうそう、マサイ族も行き来が自由だ。
 TとAによると、タンザニア側でのサファリはさんざんだったらしい。
「乾燥期らしくって・・・・・」動物が全然いなかったらしい。
「ヌーも?」
「ヌーも・・・・・」二人は口を揃えてこぼした。
「それより、なにより、クレーターだからいるはずだと期待したンゴロンゴロでさえ!干上がった池のうえをただただ走っていた、だけ!なんですよぉ〜」と愚痴る。
ンゴロンゴロはキリンとインパラ以外の東アフリカに生息するほとんどの動物がいるといわれる自然保護区の宝庫だ。
クレーターの火口縁は2,300メートルあり、底との標高差が600メートル、ほとんどの動物はそのクレーター内で外の世界を知らぬまま一生を終えるといわれる。
常時、動物が観察されるはずの保護区であるはずで、彼女たちの話しは俄かに信じがたかった。
「ライオンがあちこちに、ンゴロンゴロしてたんじゃないの?」
「・・・・・・・・オニイサン、それ、おもしろくない」
「・・・・・・・・・・」君らにも通用せんか。
昨日、はじめて会ったばかりの彼女たちは私をオニイサンと呼ぶ。尊称ではなく、逆に彼女たちは私を年下だと決めつけていたらしい。
「看護婦はとにかく忙しいし、休日もなかなかとれないし」
今度はサファリの愚痴ではなく、日常の愚痴まで聞かされる(笑)。
そのわりには、体型はふくよかで、こうしてしっかり長期休暇をとって旅するAは、マサイ・マラは2度目だという。
「いえいえ、長期休暇願いをだすのは、首、覚悟なんですよ、オニイサン」
とフォローする同僚のTだが、そのくせ、
「今度は絶対、セレンゲッティでヌーの川渡りをみたいっ!」なのだそうである。
「そのときは、ぜひ、僕を誘ってみんかね。マサイのような勇敢な私が護衛係りを務めるでみゃ」
今度はヘンテコな名古屋弁か(笑)。
「えー?だって、オニイサン、すぐ嘘つくし・・・・・・」
「おいおい、聞き捨てならんがや(笑)。って、なんで知ってるの?(笑)」
「だから、昨日の『溺れるネズミ』の話だって・・・・・」
二人は、「着替えてからまたプールに来る」と言い残して去って行った。
彼女たちこそ、嘘つきだ――――。
待てども待てども、彼女たちはプールに姿を現さなかった。

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