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タイトル
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ヴェネチアのカーニバル
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目的地 |
ヨーロッパ > イタリア > ベネチア
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場所 |
ヴェネチア |
時期 |
1986 年 2 月 |
種類 |
景色 |
コメント |
サンタ・ルチア駅の川向こうに面したホテルの裏にはローマ広場がある。 ラグーンに浮かぶこの島へ渡った者はここで車を乗り捨てることになる。 この島ではエンジンを搭載した車は乗り入れ禁止となっている。 皆、道替わりである運河を異国情緒溢れるゴンドラや水上バスで行き交うのだ。 私もごたぶんにもれず、水上タクシーを利用してベネチアの心臓部サン・マルコ広 場へ向かった。宵も深まり、ワインを果敢に腹に入れて「騎士」となった勢い で・・。 キリスト教徒の重要な節目の祝いであるカーニバル=謝肉祭は太陽暦とは違う暦で行われるため毎年同じ月日と決まっているわけではない。 毎年2月から3月の間に行われる。 前夜祭に合わせてベネチアの町に足を踏み入れたのはラッキーだった。 乗合での水上タクシーで、サン・マルコ広場近くの停止場で降りたのは数名だっ た。 昼間あれほど賑やかだった町は眠りについているかのように閑散としていた。 広場裏の商店が並ぶ華やかな通りもひとっこ一人みかけない。 祭りの狭間のもう一つの街の顔と面しながら広場へ歩く。 すると、円柱が続く回廊を抜け、いよいよジオットの塔が暗闇のなかぼんやりと浮かびあがるほどに見えてきた角を曲がった時、楽団のマーチのような音楽が夜空の風に乗って流れ出してきたのだ。 心踊らせながら私は広場へ駈け出した。 そしてこの夜の祭りは終わってないこと、終わらないことを知った。 眠れぬ夜に夜な夜な集まってきた地元民や観光客たちは、数珠繋ぎに飾られた裸電球の下、宮殿に囲まれた広場の片隅で楽団に合わせて中世の騎士や道化師に扮した仮面を被りお互いの素性を隠して酔狂に踊り狂っていた。 やがて私もその輪のなかへ飛び込んだ。私は誰でもなかった。私だけではない、 彼、彼女らも、誰でもなかった。−−素晴らしき哉、人生−− ある人はカサノバであり、マルコ・ポーロであり、共和国時代の総督であった。 踊り疲れた頃、楽団は宮殿とサンマルコ寺院に挟まれた路地へ進んだ。楽団に続いて唄を歌う人々の行列が続くのだった。 ベネチアの迷路のような道をさまようように、終わりも知らず・・・・。 しかし私はいつまでもそこに留まっているわけにはいかなかった。 心残りながらも明日は早朝ヴェローナへ向かわなければならない。 おとぎの国のようなこの町でも時間は決して止まってはくれない。 最終がなくなるという心細さが勝り水上バスの波止場へと一人踵を返さなければならなかった。 私の祝祭に浮かぶ夢島の物語もここまでであった。 20分待ってようやく、バスは空のままリアルト橋近くにいた私を拾った。 そのバスは最終ではなく、始発のバスだった−−−−−−−−−−−。
「シュワイヤ、シュワイヤ」私も独り言を呟いていた。 「甥の結婚式らしいよ」 回想が遮断され、こちら側に引き戻された。 「えっ、何?」 「モーセスの甥の結婚式だって」と、妻は言う。 「今頃になって、何?」 「だって、そう言うんよ、あれ?言わんやったっけ?」 「最初からそう言ってくれたら胸わずらわして毛穴かきむしるようにして、いらんお酒もようけ飲まんと悩まんでもよかったのに」 「お酒はしょっちゅう、いつでもどこでもの癖に」と冷ややかに返す。 妻は、肝心なことをいつも見過ごして、いつも些細なことの上げ足をとるのが好きだ。 しかしモーセス、おまえはかくもボキャブラリーが少ないのか。 それとも、妻の読解力が未熟なのか。「打てば響かん奴ばっかりや」と嘆く。 それよりなにより、私の誇大妄想気味かつ単細胞な想像力が逞しすぎたのか。 やれやれ、現実のドラマの結末はいつもあっけない。 「だって、最初から『ファミリーのダンスパーティー』って言いよらんかった?」 「・・・・・・・・・ショコラン(ありがとう)」 「アフワン(どういたしまして)」 |
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