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タイトル
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渋谷の居酒屋
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目的地 |
日本・アジア > 日本 > 東京都
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場所 |
渋谷 |
時期 |
2004 年 2 月 |
種類 |
建物 |
コメント |
◆ 今日も見事に晴れ上がった。 ぽっかり浮かぶ雲に朝のはじまりの光が吸収して眩しい。 しかし、ビルの谷間から垣間見える西の空は頭上の吸い込まれるような青さが封じ込められ、白く霞んでみえるのが一抹の不安といえば不安だ。 今日も都心郊外のとある駅のプラットホームで待ち合わせだ。 通勤ラッシュも一段落したようで、都心の雑踏もこの時間帯では、ここでは少し遠のいている。 案の定、間違いはしまいかと神経質になりすぎて待ち合わせの時間より30分もはやく着いてしまった。 そして、案の定、彼女は朝の慌しい時間に折り合いをつけて、さりとておっとりとした様子で、待ち合わせの時間より20分遅れて階段をスキップするように駆け上ってきた。その姿がどこかオーラを発散しているように感じたのは、彼女の目に眩しいサーモンピンクや白の、春をそのまま身に纏ったような装いばかりではない気がした。 「Sさん、ちょっとごぶさたで、(笑)ようこそ、旅は青空の下へ」 「あら?おかしいですね(笑)。こちらがお迎えする立場みたいなものですもの。あはは」 「今日はクマさんやウサギさん連れてきてない?オメメは大丈夫?」 「OK、OK、今日もバッチリお庭で遊んでもらってますよ、あ、まるくん、そっちの電車は○○行きですよ。こっち、こっち、お約束の時間にホームにいらっしゃらないから、すいぶん探したんですよ(笑)」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「で?」 「で?・・・・・・・・」 「いえ、おまかせしたお気軽な私ですけど、何処へ行くのかなぁ〜〜って(笑)」 「Sさん、そ、そんなに顔を望みこむように見ないでくださいよ(汗)汗が滲み出る(笑)」 幸い、新宿行きの快速電車がちょうど滑り込んできた。 これで、新宿駅構内でずんずん知ったかぶって先に歩いて、かりに迷う時間を費やすことを逆算しても十分間に合う時間だった。 安堵の胸をなでおろす、その胸に当たる感触はジャケットの裏側のポケットに忍ばせてある4枚の切符だった。 10時新宿発箱根湯元行きSはこね13号と、16時18分箱根湯元発新宿行きサポート52号がそれぞれ2枚だ。 Sさんとのオフはとんとん拍子で半日から一日に膨らんでいた。 何処でどう過ごすか、語らうかは、そのひとそのひととの「言葉」からかもし出すイメージを膨らませて選択していく楽しみもあるのだが、もちろん自分自身が楽しめなくては意味がこれっぽっちもない。これまで、パターン化なんて好ましいと思わない道を歩んできた。しかし結果として相手を翻弄するような選択をしてしまうことだってある。 いつも選択するのは自分だけど、環境が整わなければ先に進めないのは、長くて短い人生 のなかで往々にしてあることだ。 でも、機微にたけた私たちだ、彼女だ、きっと楽しい一日になるに違いない―――。
† 向ケ丘遊園駅を通過したころ、あでやかな制服を着たサービス係りが飲み物などの注文をとりにきた。 「Sさん、コーヒーでもいかが?それともビールにしますか?」 「あはは、ビール!と言いたいところですが、朝から遠慮しておきます。今日はまだまだ太陽が高いでしょ?それにあんまり外では飲まない主義なんですよ(笑)」 いい年の重ね方をしたひと独特の機微ある微笑を投げ返してきた。 「でも、まるくんは遠慮なさらず、どぉ〜〜〜ぞ(笑)」 「ええええ、遠慮と粋とは無縁なもので、朝からいただきますっ(笑)大人の遠足だもの」 「で?まるくん!?いったいどこへ行くのかな?」 「ああ、そうでしたそうでした(笑)。よくぞ!!この間、子ども大人な私を信頼していただきありがとう。実はね、今日のキーワードは富士山なのですよ♪」続けて早口に言う。 「昨年末、あなたのHPにお邪魔させていただいた初期の頃、富士山がお住まいのところから拝める日記、ありましたよね?私もたぶんはじめて長い書き込みしましたよね。せっかくの一日ですので、都心にいるよりはよっぽど豊かな時間を過ごせるかなと思って(笑)」 「え?まるくん、富士山登るのでしたらロマンスカーは方向がまずいですよ?」 「あのですね(笑)。この時間から出発して登れるわけないです(笑)。帰れません」 「冗談ですよ(笑)。『山登りじゃないよ』という鳩くらい覚えてます(笑)。あ、それより 今気づきました!私、視力がちょっと落ちてて、そのシャツの首にかけてあるもの・・・・・・」 「あはは、ようやく気づいてくれました?(笑)この暑いのに、借り物のジャンパーびっしり上までファスナーして隠してきた甲斐がありましたよ(笑)」―――――。
◆ 伊豆箱根行きバスとの接続と春が解け始める前の時期だったためか、予定より少々バスに乗る時間を要した。 HPで調べてコピーアウトしておいたバス亭、三又湖尻がどこでいつなのか、内心冷や冷やしながらなんとか停車合図ボタンを押すことができ、早春の箱根に降りたった。 まだところどころ残雪がある山の空気を吸い込み、晴れ渡った箱根の山々を見渡した。 富士山は思ったとおり、九合目あたりまでしか雄姿を現していなかった。山を覆った霞は仲春に舞い降りた悪戯な天使の羽のようだった。 「残念でしたね〜〜。せっかくここまできたのに。日頃の行い・・・・・いいのにね(笑)」 「連戦連敗のタイガースの監督気分だ・・・・。もぉ、あたりまえな自分が怖い(爆笑)」 「またきっとチャンスはありますよ。私は富士五湖や蓼科、八ケ岳のほうもよくツーリングしますけど、富士山の周辺はどこもいいところですよね、何回来ても」 「逃すからこそ、またチャンスを掴もうとする態度も育まれるよね。いい気づきをいただきました(笑)」 「そういえば、もうお昼の時間だいぶまわってるんですね〜。桃源台のほうへ下って歩いてみます?」 「いえ、ここで降りたのは訳ありなんです。お昼の食事は、ほらここで」 「あっ、そうなんだ」 80年代後半に日本で最初のオーベルジュ(宿泊施設付きレストラン)として話題となった旅籠だが、やや古びていて90年代後半には隣接地に別館がオープンしている。 本館建物に入ると二階までの吹き抜けになっていて、正面にフロントと階段があり、ダイニンングルームはテラス部分と建物内の部分に別れていて、テラス部分の方は全面ガラス窓の明るい雰囲気で、床は白のモザイクタイルだ。椅子も白木のクラシックなデザインのもので、南欧風な雰囲気。建物内の部分は暖炉があり、椅子もデザインが異なり、床は大理石になっている。 築年数が経っているせいか、インテリア全体に多少古ぼけた印象があり、特に隣に豪華な別館が建ったため、余計傷んだところが目に付いてしまう。 椅子のクッションは相当へたっているし、テーブルも金属フレームの古びたもので、席の出入りでスタッフがテーブルを移動する時に「ギーギー」音をたてるのにはちょっと閉口する。ちょっと寒いゲストルームでお足着せのように待ったあと、ダイニングへ。 「あ、Sさん、もうメニュウも伝えてあるし、ワインもだいたい検討つけてる。何を食前酒に選ぶかだけ、頭を使ってくださいね(笑)。シャンパンを梅酒で割ったのがお薦めらしいですよ(笑)」―――――。 「なんだか・・・・、ハニーさんに申し訳ない気がします・・・」
† 今日、なんと間が悪くケーブルカーが今日一日だけメンテナンスのため運行を休止していた。 結局湖尻をしばらくぶらぶら散策して芦ノ湖を目やフィンダーを通した印画紙のように焼き付けて、またきた道を戻るときがきた――――。
帰りは、2月も後半になると夕刻でもだいぶ日が高くなってはきたけど、やはり冬の化粧を纏った時間が静かに近づいてきた。 「今日はね、Sさん、何処へ行くかというのももちろん目的もある小さな旅行でしたが、でも目的地に行くことだけが旅とは言わないんだよね。車窓から見える景色、車内で交わした会話、目で見たもの、触れたもの、かいだ匂い、味わったもの、聞こえてきた小鳥の囀りや風の歌、そういうものすべてを五感を通して感じていくこと、これらから見出していくことなんですよね。これを【気づき】というのだと思うんです。そして、それらは全部、自分からの出発で、自分以外の他者、世界を通して自分に跳ね返り吸収することができる。それを【出会い】というんだと思うんです。目的、である富士山は拝めなかったけど、その過程でいい発見や喜びを見出していくこと。それが【旅】なんだと思うんだ。人生に当てはめられるよね―――」 「でました、まるくん節(笑)。今日は本当に有意義でしたね〜〜。なんだか頼りない面や(笑)めったにお目にかかれないタイプの優れた面やいろいろ拝見できましたよ。相変わらず不思議なひとです(笑)。 それもこれも奥様に感謝、というオチでしょ?まるくん?(笑)。 でも、もうすぐ東京ですけど、夜のお約束まで、まだ時間ありますよ?どうします?」 「へっへへ〜〜。このあと渋谷にご一緒していただきます。ちょうど文化村でモネとルノアールの特設展、開催してるんですよ♪モネとルノアールは最も好きな画家なんですよ。おつきあいいただきますねっ♪」 「まるくん・・・・・・、プロフィール、この前見ましたよ。絵画より鑑賞してる美女に目がいくそうですね・・・・・・・」 「そういうのも、あり!!なんですっ♪」
おしまい(w
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