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アラビア砂漠を疾走し
アラビア砂漠を疾走し

タイトル  アラビア砂漠を疾走し
目的地 アフリカ・中東 > その他の国・地域 > その他の都市
場所 ルブアルハリ砂漠
時期 1996 年 5 月
種類 景色
コメント 砂漠に突入する整備点検が一番遅かったのは、案の定3号車だった。
再出発するとすぐワスファルトの道は途絶え、隊列していた車は昨日のオールドマーリブへ向かう道中と同じくバラバラに走り出した。
いよいよ、ワクワクドキドキの砂漠ルートである。
前の車から吹き出される砂が容赦なく窓の隙間から進入してくる。
その様をビデオに撮りながら、私の興奮状態は絶頂にあった。
「ラリーや。ラリー」と私はラリッていた(笑)。
 左手に火炎を吐き出す煙突が見えてきた。精油所である。
「石油の出ないアラビア」と言われていたイエメンでも石油の埋蔵が発見され、1984年より採掘がはじまった。
地図で調べると、ここはサーフィである。
地図上のサーフィのすぐ上はサウジアラビアだ。
ジャンビアの形に似たアラビア半島の大部分を占めるルブアルハリ砂漠のなかに国境を定める両国であるが、砂漠の中央あたりから国境線が書かれていない。
確定していないのである。
砂漠に国境線を引くことが不毛なのか、石油の埋蔵が原因で両国の国境線が合意されていないのかはよくわからない。両国の政治的緊張や紛争が日本にまで伝え届くことはない。
イエメンはサウジアラビアや湾岸諸国の援助により国家運営が成り立っている、とよく揶揄される。
国家財政ばかりではなく、国民もオイルマネーを求めて多くのひとびとがサウジなどへ出稼ぎに行く。
サウジのひとびとはイエメンを「アラビア唯一の田舎者」とジョークを飛ばす。
一方、イエメンのひとびとにすれば、サウジや湾岸諸国のひとびとは「パッと出の成金」となる。
「太古から緑豊かな地で栄えた南アラビア(イエメン)人に比べ、北方の彼らは、羊とラクダしかもたぬベドウィンではないか」と罵る。
「――イエメン人は自分たちこそアラブの源流だと自負している。アラブの系図学では、古い血筋である南アラブ(カタハーン)のほうが、多民族との混血によって形成された北方アラブ(アドナーン)よりも純粋なアラブ人であるということになっている。カタハーンはノアの曾々々孫で24人の息子を持ち、イエメンに農業をもたらしたのは彼だとされる。そしてサナアを開いたとされるアザル、イエメン東部のハドラマウト地方の祖であるハドラマウト、北部山岳民族の祖であるヤアルブなどはいずれもカタハーンの息子たちである。つまり、イエメン人はカタハーンの直系なのだ。すなわち純粋アラブである。このことは他のアラブ世界でも広く認められている――『イエメン―もうひとつのアラビア』(佐藤寛著・アジア経済研究所)」と書かれている。
ジャンビアをさした誇り高き部族たちの面目躍如である。
 油田を後方にし、左手は小高い岩山がつづく。
3号車は突然停車し、アリは嘆きの声を発した。
置いてきぼりだ。
どうやらパンクしたらしい。
異変に気づいた他の車も舞い戻ってきた。
相変わらずノンビリ作業するアリをみかねたのは私だけでなく、彼らの主任であるナジプサだ。
彼の指示により他のドライバーも手伝い、なんとか再出発だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 30分後、また私たちの車だけ、砂漠のなかに取り残された――――。
アリは私たちに振り返りチャーミングな笑い顔をつくる。
「また、パンクかよ・・・・・・・・・」嘆く私たち。
アリよ、言い訳よりも故障を繰り返すのが私たちの車だけ、ということを少し整理して考えてみよう。
この車だけがポンコツというわけではない。コース取りにさして問題あるようには思えない。
なんのことはない、君は運転を飛ばしすぎるのではないか?
「ブラボーだなんて横で煽るからだよー」私までトバッチリだ。
次々と、砂煙を巻き上げて車が戻ってきた。
アリのドライバー仲間たちの目は、今度ばかりは笑っていなかった。
なかでもナジプサの眠そうで、かつ鋭い眼光は鋭いものがあった―――。
なんとか、なんとか、今度は左後輪のタイヤ交換を終え、再々出発だ。

「ワアッハハハハハハハアッハハハ」
2度あることは3度ある――格言どおりの様を私たち3人は笑い飛ばすしかなかった。
処置の施しようがない、ともいう。
油田があるサーフィからここまで2時間。
見渡すかぎり360°視界が利く砂漠の地平線。
太陽も随分高くなり、身を焦がす灼熱、とはこのことだ。
「で?アリ?なにもしようとしないのはナゼ?」
アリは太陽が真上に近づいているため、ほとんど影のない車体に身を預け、頭を両腕で抱えて座り込んだまま動かない。
「スペアのタイヤがもうないらしいよ」
「ええええっー?」

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