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タイトル
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10月の空
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目的地 |
日本・アジア > 日本 > 愛媛県
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場所 |
愛媛 |
時期 |
1998 年 10 月 |
種類 |
景色 |
コメント |
あの夜の出会いを、 至福の一夜の全てを、今でも夢心地で邂逅するときがある。ナズラット・サマーン村のある一角で繰り広げられた結婚パーティーは幼い子供たちまで巻き込んで、眠りも知らずに明け方まで続くことだろう。 しかし、−通り過ぎて行く−人である私たちがいつまでも留まっているわけにはいかなかった。幕は自分で降ろさねばならないのだ。 私は表裏一体の出会いと別れのけじめをつける術を知らず、共に親しみ楽しんだ多くの今宵の「同志たち」へのお礼もそこそこに、いや言葉すら交わすことなく去 る。今度は子分に従いながら、広場へたどり着いた電球のアーチを潜り、電球がなくなるとすぐに真っ暗になる小路を歩いている。後ろ髪を引かれるヘンデルとグレーテルの心境で。 パンチパーマの兄貴の歌声がどんどん遠のいていく。 振り返ればオババたちの姿が見えるはずだったが、後ろ髪を引かれる思いをしながらも前へ進むことを使命であるかのように振り返らなかった。 せめてオババたちにだけでも丁重なお礼をすれば・・いや、私はその時、予定調和のごとく根拠もなく心に期するものがあったのだ。
−−−また、必ず、 ここに、帰ってくるから・・・−−−予定調和・・・? オババたちはこちらを見つめてるだろうか?今度こそ高らかに笑いもせず澄んだ瞳で。 それより何より子供たちとの別れがいじらしく、胸がうずく。 彼女らはいつか人生の狭間で私たちのことを、妻の周りを輝かさんばかりの気品を思い出してくれるだろうか? 今の彼女たちにとっては、別れのつらさというか、ゲームが終わった虚しさくらいにしか捉えることはできないはずだから・・・。 その時、 一斉に背後に近づいてくる歓声が土壁が迫る狭い通路に響いた。 シャイマーをはじめいつものメンバーが私たちがいないことを察して追いかけてきたのだった。子供たちのほうが、ずっと敬虔で情念深い。 シャイマーは誰より素早く妻に飛びつき、ともに不慣れな抱擁を頬と唇で交わし た。シーワが次は私とせがんでいる。妻の服袖は何本もの手で引っ張られ伸びきっている。シャイマーは何度も口づけを交わした後、我に帰ったように踵を返して、 一目散に広場へ駈け戻って行った。 一度も振り返ることなく。 最後の最後まで強烈な印象だけを残して。 彼女は全力で走り去ることにより、幼いながらも彼女なりに別れのけじめと日常へ帰って行くことを潔しとしていたのかもしれない。 それとも、それは深読みしすぎで、たんに去る者は追わず、より楽しい祭りに還っただけなのかもしれない。きっとそうだろう。 いずれにせよ彼女が去ったのではない、私たちが彼女の目の前を駈け抜けていったのだ。 シャイマーが去って、妻を巡り争奪しあう無法地帯と化した。 「客に迷惑だ、はやく広場へ戻れ」 子分2号は子供たちを蠅を追い払うように手払いしていた。 妻はなされるがまま、困惑している。 私は私でギザのキザ屋君とゆったりと和やかに握手を交わしていた。 シーワも抱擁交わしたし、もうそろそろいいかなと、どんどん広場から離れていく子供たちのことも考えて親心でもう戻りさいと、バイバイしながら手で払うような恰好をしたら、子分にますます火を焚きつける恰好になってしまい、子分はますます凶暴になってシーワたちを追い払ってしまった。ありゃりゃ、とんだ幕引きになってしまった。 だが、まだ、間に合う。女の子たちは一斉に振り返り、私たちは同時に叫んだ。 「バイバーイ」とシーワたちは叫び、 「マッサラーマ」と私たちは応答した。
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