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タイトル
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10月の空 ?
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目的地 |
日本・アジア > 日本 > 愛媛県
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場所 |
愛媛 |
時期 |
1993 年 10 月 |
種類 |
景色 |
コメント |
一時が万事そうであった。観光初日のカイロでもそうだった。 ゲジラ島では、眼前に聳え建つカイロタワーでさえ、周辺をぐるぐるまわって「注文の多い料理店」の主人公のごとくなかなか辿り着けないのだった−−−−−−−−。
「まっ、たぶんこっちだろ」といつもの口上を吐き、村から出た大通りを左へ進んだ。 彼女を不安がらせないように、というか自分が不安一杯で口を開いた。 「ねっ、来てよかったでしょ。ダンスパーティー」 「不安がってたくせにー。来てよかたでしょ」とやり返され藪蛇だった。 「そんなん、最初からわかっとったよ」 「嘘ばっかりー。どうしようかってオロオロしとった癖に」 「反応みよっただけよ。ラクダ使いなんかちょろいもんよ」と、なお喰い下がっ た。 「フーン・・幸せなひとだね・・・何か良いことありました?」 「そりゃそうでしょう。だって、ねえ?」戻った指輪を見、高らかにカラカラ笑っ た。 「そうとったか」 「だってねえ?」と、スキップしたりした。人は何かに癒されなければ救われない。 「ほんと幸せなやっちゃ」 私は鼻唄を吹いていたりした。今にも舞い上がっていきそうだった。ホントにホント。 そう、魅惑的な天使が現れてきそうなフワフワした居心地だった。 通りには車の往来が全くなく、人っこ一人みかけない。看板のネオンも消燈していた。 ここも、広場の祝宴とは無縁で深い眠りについている。
街の全てが静寂に包まれ、太古の深い海でたゆたっているクラゲのようだった。 二人はそれぞれのー余韻ーに浸っていたのか、闇に紛れていくように無口に戻った。 祝祭の余韻に浸りながら道行くと、やがて通りはTの字に交差した所に行き着き、どちらを選択するかを、またいつものように迫られるのだった。現実はキツイわ。 「たぶんこっち」言うや否や、 「あっ、人がこっちに来るよ。聞いて見ようよ、聞いてみようよ」と、せかす妻。 聞いてみようよ、じゃなくて、聞いてみてよ、のくせに。 聞くのも、選択気力も、虚脱感で萎えていたが、しかたなく前者を選択した。 たまたま通りかかった男に、すれ違う手前で息殺して声かけようとしたら、 「どこへいくのか?道に迷ったのか?」と先に声かけられた。 暗くて顔ははっきりとわからなかったが、初老の男は山高帽を被っており紳士然とした身なりだった。ホッとした。 「オベロイホテルへ行きたいんですが」 「ああ、それならこの道を真っ直ぐ行き、しばらくするとたどり着けるよ」 彼はエジプト人ではないぞと思えるくらい流暢な英語で教えてくれた。 お礼を行って去ろうとする私たちは彼に呼び止められた。 「もしよかったら」間を於かず彼は一気にまくし立てた。エジプシャンに変身だ。 「明日、サッカラやメンフィスの砂漠への一日ツアーはどうだい?オベロイに泊まっているんだろう?7時に迎えに行くよ。4WDでな、日本製だよ。どうだい?いいかい。ワンダフル、ベリィナイス間違いなしよ。絶対お得だよ、いいね?よし決めた!」 「あのー、残念だけど明日の早朝私たちはギリシアへ向かわねばならない。今晩でエジプトにいるは最後なんだ。ほんと残念(嘘)だけど」 「エジプト最後の日」と告げられた彼は急にしゃっくりが出始めたかのようにびっくりして慌ててまた紳士に戻り、帽子に手をかけて丁重に謝り去っていった。 エジプト最後の日−−−自分で唱えながら何故か実感がなかった。 二人は山高帽に教えられた通りを左へ曲がり、ますます無言で歩いた。 今、紳士に出会って、「今晩の出来事」、最中は気づかなかったことを思い巡らした。 ナズラット・サマーン村の中を馬に乗りまた自分の足で歩き見た住宅のどれをとってもそこの住民たちが決して裕福といえるような経済状態ではないことを示唆して いた。 それなのに、この国で過ごした一週間何度も声かけられた挨拶がわりのような文 句、−−−「バクシーシ(恵んで)」と声かける者が一人もいなかった−−−ことに。 爽やかな一陣の風が吹いた−−−舟を漕ぐ、 テーイップの子分たちの顔が蘇る−−− いつも素敵な風に包まれていた。魅惑のハーモニーの出会いと別れとともに−−−−。
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